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ご来訪ありがとうございます。 バ/ク/マ/ン。の福田と蒼樹、新妻と岩瀬の二次創作を中心に公開しております。 苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
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書いてるうちに何か色々溢れてきたよ。
まだ続きます。

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気を失っていた時間はほんの数分程度であったはずなのに、目を覚ますととんでもない吐き気と頭痛に襲われた。
脱衣所で倒れた福田をどうやって運んだのか、目覚めた場所はリビングだった。
福田は起き上がり、枕代わりにと敷かれていたクッションを頭の下からどけた。
「福田さん……大丈夫ですか?」
全然大丈夫ではない。
ぐわんぐわんと耳鳴りがうるさい。
腹が痺れるように痛み、何が原因だったかと記憶を巻き戻すより早く、見知らぬ女の声がした。
「あー、良かった、起きた」
「………?」
視線の先、蒼樹の隣に、蒼樹がもう一人いた。
もう一人の蒼樹はマカロンのように甘い色の部屋着を纏い、缶ビール片手に「どもー」と軽いノリで挨拶をしてきた。
錯覚か幻覚かと何度か瞼をこすってみるが状況は変わらない。
もしかしてこれは、ドッペルゲンガーという奴か。
二人を交互に見遣る福田の心中を察したのか、申し訳なさそうな表情で、蒼樹は隣に座る蒼樹そっくりの女を紹介した。
「あの……姉の恵梨子です」
ドッペルゲンガーでも生霊でもないこの女は、一つ違いの姉だという。
顔も髪型も蒼樹そっくり、違いといえば泣き黒子の位置だけ………こうして並んでいれば、雰囲気や喋り方でどちらがどちらか判断できるが、街で顔を合わせた位では、見分けられる自信はない。
蒼樹の姉……よし、蒼樹姉と呼ぼう。
福田は勝手にあだ名を決めた。
「姉は、空手の有段者でして………女子高で、国語と護身術を教えているんです」
だから負けたとしても恥ではない。
そう、言外に言われている気がする。
「ごめんね、手加減はしたんだけど」
そして追い打ちのように、全く悪びれた様子のない蒼樹姉の謝罪が続く。
「姉さん、もう少しきちんと謝ってください」
小突かれた蒼樹姉は、缶の飲み口から離した唇を軽く尖らせる。
「すっ裸見られてんのよ?謝ってほしいのはこっちだわよ」
小声のつもりなのだろうが、残念ながら距離が近すぎてまる聞こえである。
「………別に俺は、見たくてあんたの裸を見たわけじゃねーぞ」
スケベ心よりも男のプライドが大事だ。
痴漢よばわりされ、女に負けた恥をかいてまで見たくはない。
「どっかの馬鹿の、早とちりが原因だろーが」
結局のところ、連絡なしにやってきた蒼樹姉が鍵を掛け忘れて風呂に入っていたというだけの話で、空き巣でも変態でも中井でもなんでもなかった。
「……散々に心配させといてこれかよ」
ババを引いたのは、電話で呼びつけられて飛んできた福田だけ。
三白眼で蒼樹を睨むと、彼女は気まずげに首を竦めた。
自分の早合点が全ての元凶であることは自覚しているらしい。
「本当に、申し訳ありませんでした」
謝罪されたが、ごめんですむなら警察はいらないのだ。
「ちょっと注意すりゃ、気付けただろーが!まったく、いい大学行ってたくせしてどんだけ抜けてんだよ!」
良くも悪くも感情を溜めこんでおけない福田は、怒りを後にひきずる事がない。
しかし、その代わり、腹が立つと饒舌になる。
全てを吐きださなければおさまらないのだ。
「そんなだからなぁ、アンケート順位が振るわねぇんだよ!尻に火ぃついてんの、分かってんのかぁ!?」
苛立ち紛れに吐いた言葉がヒットした。
萎れていた蒼樹がキッと眦をつりあげる。
「………福田さん。文句を言うにしても、言い方というものがあるのではありませんか」
「ほんとの事だろ。いちゃいちゃしてる場合かっつーの」
蒼樹の連載は、ここしばらく低迷を続けている。
打ち切りになっていないのは運が良いからに他ならず……何より福田を苛つかせるのは、蒼樹に焦る様子がない事だ。
「イチャイチャなんて、していません!言葉に気を付けて下さい!それに、平丸さんの事と漫画の順位は、関係ありませんっ」
「別に責めてるわけじゃねーよ。いいんじゃねぇーの、楽しいんだろ。平丸さん転がして養ってもらえば、楽できるぜ?………俺なら、絶対、ゴメンだけどな」
蒼樹を怒らせる事にかけて、福田の右に出るものはいない。
本日の仕事も完璧だった。
口元を歪め揶揄する福田に、蒼樹が激昂する。

バシッ

大きな音を立て、丸いティーテーブルが揺れる。
蒼樹が手のひらを打ちつけたのだ。
「………順位が上がらないのは、単に私の実力不足です!!平丸さんとの事を持ち出されるのは、不愉快です!!」

ドンッ

テーブルの上に置かれた携帯電話が一瞬、宙に浮く。
向かい合った福田もまた、拳でテーブルを叩いたからだ。。
「実力不足だと思うなら、もっと漫画に集中しろ!趣味で描いてんじゃねーんだぞ!一晩かけてデートプラン練ってる暇あんなら、ネーム練り直せ!!!」
怒鳴る福田に、蒼樹は両耳を塞ぐ。
「大きな声で、怒鳴らないでくださいっ!どうしてそう、キレやすいんですかっ!!」
しかし言い返す蒼樹の声も、かなりのボリュームだ。
「ラーメンばかり食べて、カルシウムが足りていないから、そうなるんじゃありませんか!?」
「………なんでいきなり、俺の食生活の話になるんだ!」
「人のプライベートに口出しする前に、ご自分の食生活を見直されてはいかがですか、と申し上げているのです!」
「何食おうと、俺の勝手だ!」
「体を壊したら漫画に影響が出ると思いますがっ?それこそ、おいしい手料理を作ってくれる彼女でも、作られたらいかがですか!?きっと、多少は性格も穏やかになりますよ!?」
「は!?彼女だぁっ?………そ、れこそ、関係ねーだろーがぁ!あ゛ぁ!?舐めた事抜かすと6hF@1W;!!」
むかつき過ぎて舌が廻らない。
最後は自分でも、何を言っているのか分からなくなった。


「……ブッ」

もう無理!たえられないぃぃ!
二人のやり取りを黙って見守っていた蒼樹の姉が吹きだした。クックックッと腹を抑えて笑っている。
「………何だよ」
水を差された形に、不機嫌を隠そうともせず尋ねると、蒼樹姉は怯えたように首を竦めた。
しかし明らかに目が笑っている。
「いいえ。何でも」
気絶させられたからという訳ではないが、気に食わない女だ。
………裸をみといて何ではあるが。
「二人とも、そう熱くなりなさんなって」
試合終了のゴング代わり。
パンパン、両の手を合わせて蒼樹姉は立ち上がった。
「折角だから、三人で仲良く酒盛りしない?ビール冷やしてるの」
福田はいらねぇよ、と断ったのだが、聞こえていないのか、聞いていないのか。
蒼樹の姉はいそいそと立ち上がりキッチンに向かう。
あまり人の話を聞かないタイプなのだろう………蒼樹とは別の意味で、苦手なタイプだ。
「………」
「………………」
蒼樹姉がキッチンに向かった為、必然的に部屋には、福田と蒼樹が取り残される。
気まずい沈黙の後、先に折れたのは蒼樹だった。
「…………すみません、言い過ぎました」
言い過ぎた自覚は福田にもあった。
どうしてか福田は、蒼樹の世話を焼き過ぎる。
漫画の順位もそうだが、平丸との事なんて、福田が口出しすべき問題ではないのに。
「いや、俺こそ………悪かった。まぁ、良かったじゃねぇかよ。中井さんじゃなくて」
頭を掻きながらそう返すと、蒼樹の表情が緩んだ。
「はい。本当に」
ほっとしたのは福田も同じ。とりあえず、これで仲直りだ。
「しっかし蒼樹嬢の姉ちゃん、蒼樹嬢にそっくりだな。双子みてぇ」
話題を変えようと話を振れば、蒼樹もそれに乗ってきた。
「青木家の仲良し美人姉妹、とご近所では評判なんですよ」
そう話す蒼樹は少し誇らしげだ。
顔よりも仲の良さを褒められた事が嬉しいのだろうか。
「奇人姉妹の間違いじゃねーの」
……顔は文句なしの二人だが、性格はどちらも難ありだ。
うまい事言った(そうでもない)、と、ニヤリとする福田の顔を蒼樹が睨む。
折角仲直りしたのに、これでは元の木阿弥。
「……悪ィ」
慌てて謝罪をする。
「全く……どうしてそう、福田さんは口が悪いんですか」
そう言った彼女の眼差しには、親しみがこもっていた。
数秒して、どちらからともなく、弾かれたように笑った。
「あらら。もう仲直りしちゃったの?」
笑い声につられたのか、キッチンから蒼樹姉が顔を出す。
「ねぇ、優梨子。何かおつまみない?」
「ありますよ。冷蔵庫にチーズが」
姉の問いかけに立ちあがりかけた蒼樹の手元近く、テーブルの上に置かれていた携帯電話が鳴りだした。
蒼樹が電話をとりあげる。
「……すみません、電話が」
誰から、と福田は尋ねなかったが、蒼樹は先んじて、「平丸さんです」と言った。
そういえば福田に電話を掛ける前に、平丸にも電話をしたと言っていたな。
携帯電話を手にした蒼樹が部屋の隅へと移動するのを眺めながら福田は思う。
「……はい。蒼樹です……平丸さん。こんばんは。今日はありがとうございました。楽しかったです」
わざわざ部屋の隅に移動したところをみると、会話の内容を福田や姉に聞かれるのが恥ずかしいのかもしれない。
「素敵な写真立ても、ありがとうございました。大事にしますね」
背を向けた蒼樹の顔は見えないが、きっと穏やかで満ち足りた表情をしているのだろう。声と同様に。
平丸といる時の蒼樹は、福田といる時よりも穏やかだ。
今の彼女は福田の良く知る、気が強くてプライドの高い頑固者ではない。
聖母のように柔和な、知らない女。
恋は女を変えるというから、きっとそのせいなのだろう。
それを寂しいと感じる権利は、福田にはない。
「………はい。平丸さんにお伺いしたい事があったのですが、心配なさらないでください。もう解決しました」
事情をぼかして説明しているところをみると、部屋に押し入ったのが中井ではと疑って電話をした事は、言い難いのだろう。
「優梨子ーー。チーズ、全部出しちゃっていい?!」
蒼樹姉がキッチンから声をあげる。
「……え?はい。そうです。姉が遊びにきていまして」
少し大きめのその声は、電話の向こうの平丸にも聞こえたようだ。
しかしそれが悪かった。
「はい!?挨拶ですかっ?姉に?今から?いえ、そんな」
突然の申し出に、蒼樹の声がうわずる。
まずい。
今、平丸にマンションに来られたら、鉢合わせしてしまう。
事情を説明するのは面倒だし、要らぬ誤解を受けるのは勘弁だ。
蒼樹も同じ事を考えているのか、困った視線をこちらに流す。
「………えっ!違います!姉に平丸さんを紹介したくないだなんて、一言も!」
蒼樹の反応が良くなかったせいだろう。
平丸はすでに、若干ネガティブが入っているらしい。
そのせいか、むげに断れず、蒼樹の声は歯切れが悪い。
「ビールにチーズって最高の組み合わせねー」
唯一人、状況を理解していない蒼樹姉が、能天気な声と共にキッチンから帰還した。
トレイに乗せた青と金のラベルのプレミアムビールと、サラミの入ったキューブ形のチーズをテーブルに置く。
どうぞ、と缶ビールを勧められたが、福田は受け取らなかった。
「いらねぇ。俺、もう帰るわ」
福田の声に、壁を向いていた蒼樹が振り返る。
「……待って下さい!帰らなくても、今」
言いながら彼女の右手は、通話口をしっかり抑える。
意識しているのかどうかは分からないが、やはり、福田がここに居る事を平丸に知られたくないと思っているのだろう。
まぁ、そりゃそうか。
何だか間男みたいだな。
考えると滑稽だった。
福田は黙ったまま立ちあがり、携帯電話を手にした蒼樹の前に立った。
己の唇に、人差し指を一本寄せる。
静かにしろ。
ジェスチャーだけで指示を出す。
「ですが」
まだ何のお礼も。
わざわざ来てもらって、礼もせずに帰すわけにはいかない、蒼樹の瞳がそう語る。
どんだけ生真面目なんだ。
礼なんていらねぇ、と、苦笑しながら首を振る動作で彼女に伝える。
それで伝わったのかどうかは定かではないが、すみません。蒼樹の頭が、小さく前に傾いた。

『ユリタン?どうしたんです?』 

蒼樹の手が抑えた携帯電話から、平和な声が微かに漏れる。
……いいって。気にすんな。
声には出さず、口の動きだけで蒼樹に伝える。
不自然な間を作れば、平丸に余計なネガティブの種を植え付けてしまう。

『ユリタン?怒っちゃったんですか?』

蒼樹が黙ったままだからか、平丸の声が慌てている。
ほれほれ、早くしろよ。
急かすように手で払い、片目を眇めて合図をすると、蒼樹は小さく頷いた。
そして蒼樹は、携帯電話を再び耳に当てる。
「……いえ、すみません平丸さん。何でもありません」
じゃあな。
軽く右手をあげる。
二人の会話を背に受けながら、部屋を出た。


 

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